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【文書版|後編】上の空の上|大切な人を看取った記録|021

上の空の上文書のみ後

注意点

大切な人を看取った記録です。
悲しい表現がたくさんあります。
苦手な方は飛ばしてください。

 

◀︎ 前のお話しはこちら

 

こちらの投稿は文章のみです。
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上の空の上|後編

覚悟していたより

ずっと

柔らかな別れだった

 

無理矢理 引き離されたり

突然シャッターが閉まったり

私だけ登れない
巨大な壁が
現れたりするのでは無く

 

ここから先は一人で行きなさいと

貴方が手を離した

そんな気がした

 

先生の話は聞かなかった

疑問を解消したところで
結果が変わるわけじゃない

 

何をどう説明されても
納得なんか出来るわけない

時間をかけて納得する以外
選択肢がない

 

そして

何より

貴方の身体に
温もりが宿る

この最期の時に

貴方から離れるなんて出来ない

 

眠る貴方の背中に

両腕を滑り込ませて

貴方の体重、匂い、それから体温を

私の身体に刷り込んでいく

 

とても眠たくなって

貴方に包まれて

このまま眠りたかったけれど

 

理不尽な
流れ作業が
押し寄せる

 

心が追いつかず
逃げ出したくなる

 

だけど

私にしか出来ないことや

私にしか分からないことの

 

全てに

 

貴方の側に

私がいた証が

散りばめられている

 

 

 

私は

貴方が履きたがっていた靴を

知っている

 

私は

貴方が着たがっていた服を

知っている

 

私は

貴方のお気に入りの口紅を

知っている

 

そして

その在り処を知っている

塗る時いつも
気を付けていたことも知っている

 

マニキュアをお揃いにした
私たちの手はよく似ている

 

貴方に
置いていかれることを
あんなに怖がっていたけれど

 

今から
貴方を

この部屋に置いていく

 

出来ることが

きっと

まだ

あるから

 

 

この期に及んで

貴方に褒めて欲しい私は

 

暗闇の中で光る

矛盾した喜びを

見つけた

 

それを集めて
悲しみの濃度を薄めていく

 

いくら馬鹿な私でも

いつか

こんな日が来ることは分かっていた

 

 

だけど

こんなの全部

もっとずっと

先の未来だと思っていたよ

 

 

 

貴方はいつも

先回りして

心配ばっかりしてた

 

きっと

いずれ続く私たちが

何不自由なく

楽しく暮らせるように

急いで

行ってしまった

 

そんな急いでどこに行くの

 

私には

「立ち止まってもいい」

って

「振り返ってもいい」

って

言ったくせに

 

嘘つき

 

いっぱい

色んなこと

約束したのに

一人で
どうやって叶えればいいの?

 

 

その日

私は

嗅覚の限界を超える
花の匂いを浴びていた

 

全ての花が
この部屋の苦しみや悲しみを
溶かし出そうと

見返りを求めず

最も美しい時を
ただ差し出してくれる

 

その強烈な愛情が

ザラザラに干からびた

喉の痛みを和らげていく

 

それなのに私は
花たちの健気な愛に背を向けて
どうでもいいことばかり考えていた

 

これは全て夢で
幻なのかもしれないと

心の片隅で思い
本気で願っていた

 

あの花籠の隙間に

小型カメラがあるかもしれないと
目を凝らしたりしていた

 

「いい加減にしなさい。」
「テレビの見過ぎよ。」

って

笑いながら怒る貴方が

頭をよぎる

 

足を広げて座っても

濡れた手をスカートで拭いても

誰にもバレないように変な顔をしても

 

貴方はもう怒らない

 

ずっと微笑んだまま
私を見ている

 

どこから

どう見ても

一人用の箱が

 

貴方を運んでいく

私はもうこれ以上
一緒に行くことが出来ない

 

世界一

美しい貴方の

頬に触れる

 

柔らかく

滑らかに

吸い付く手のひらの感覚と

指先に突き刺さる

氷のような冷たさに
私の脳みそが悪あがきをやめる

 

涙が次々に溢れ出す

我慢してカッコつけていたことが
台無しになった

 

私が泣くと
貴方は
後で

隠れて

こっそり泣く

 

いつもそうだった

だから

私はずっと

上の空でいたかったんだ

 




嘘みたいだ

あんなに丸っこい

貴方が

こんなに小さく真四角に収まってしまった

 

でも
やっと
コーラ
飲めるね

しかも
思いっきり冷えたやつ

「こんなに飲めないわよー。」

って言いながら
飲み干すんでしょ?

 

うなぎも
餃子も

食べ切れないほど買っておいたよ

奮発して高島屋のやつにしたんだ

 

あんみつも
わらび餅も
これからは
いくらでも
クリームかけていいんだって

そうだ
日帰り旅行なんて言わないで
海外旅行に行こう

 

それからまた

犬も飼いなよ

こっそり教えてくれた
あのダサい名前つけてさ

今度は反対しないから
どこにでも連れていこう

 

ねぇ

無視しないで
何か言ってよ

 

 

おろしたてのスプリングコート

柔らかい薄手のストール

編みかけの編み物

洗剤の買い溜め

紙袋のストック

 

この部屋にいると

貴方の気配に
支配される

 

あぁ

ここは
貴方と私の
2人きりなんだ

 

身勝手な私は
わざと大袈裟にないて貴方に甘える

 

怒って

うんざりして

心配して

まだ
ここにいてほしい

 

私を見送る時
貴方は笑顔で送り出してくれたのに

 

どうしても出来ない

 

 

 

それから
少ししたら梅雨が明けた

すぐさま
自己顕示欲の強い
太陽が割り込んでくる

あんなに待ちわびていたのに
あまりの暑さに
うんざりする

 

私はやっぱり身勝手だ

 

強制的に
日常を注ぎ込んでくる

社会や季節の
無神経な仕組みに傷つきながら

 

その無関心な距離感に
救われる

少しずつ
だけど確実に時間が過ぎていく

声も

少しずつ
色褪せてしまうんだろう

だから
頑張れという貴方の声が
貴方の声のまま
保存されている
今のうちに
強くなりたい

足を止めれば
悲しみが頭を支配して
戻れなくなりそうで
必死にしがみつく

そうして
部分的に
少しずつ違和感が減っていく

私は
貴方を第三者のようにして
新しい日常を組み立てていく

次第に当たり前になる

新しい光景
新しい世界

 

私は薄情者なんだろうか

もしかしたら
貴方は寂しがっているのだろうか

 

 

葛藤は一瞬で消えた

 

馬鹿にしないで
と笑う貴方が
私をまた導く

そうだ
貴方の愛はそんなもんじゃない

「葛藤させてごめんね。」

 

そんなに苦しまないでと

心配して笑っている

 

 

 

不器用でも必死に
駒を進めようとする私の
勇気とプライド

歪な作り笑いを
誇らしげに
静かに
貴方は見守っている

 

貴方は潔く美しい人だ

これまでのことは
忘れてもいいから

 

忘れちゃうくらい

これからの未来を
楽しく

「幸せな時間に埋もれて生きていきなさい。」

 

何度も囁いてくれる

 

寂しさを噛み殺し
自分を後回しにしてでも
私の背中を押し続けてきた

貴方が

今更
拗ねるわけがない

 

それどころか

貴方の残像が
そこら中から溢れ出て

未だに
私を強くしていく

 

私が何か自慢話をすると

「あら、いいわねぇ。」

と言って

 

目尻のシワを深くする

 

それから丁寧に

喜びを噛み締めて

一人で笑う

 

最も

脳裏に

焼き付いている貴方

 

私はその姿が大好きだった

 

深い喪失感に
支配された
孤独な夜ですら

 

途切れることなく
吹き続ける

 

この迷いのない
美しい追い風こそが

 

貴方が私に
遺してくれた

最大の愛だ

 

私たちは

また必ず会える

 

その時は

抱えきれないほど

たくさんの自慢話を持って行こう

 

追い風を信じて

今は描くんだ

 

ーーーーーー

 

元気ですか?

私はなんとか元気です。

今日も
貴方がくれる
追い風が吹いています。

私は
大丈夫だけど

それでもやっぱり

もっと貴方に
生きていて欲しかったです。

あれから
どれだけ泣いたか分からないけど

この涙は弱さじゃなくて
貴方が恋しくて
愛しくてたまらないから溢れるんだって
自分を不甲斐なく思うのは辞めました。

実感なんか沸きたくないのに
とても悲しいけど
毎日少しずつ実感が沸いてきました。

もしも一度だけ戻れるなら
楽しかったあの時より
喧嘩をしてしまった
あの時に戻って謝りたい。

せっかく願いが叶うなら
楽しい時がいいって
貴方は言いそうだけどね。

後悔は尽きないけれど
塞ぎ込んでしまうより
押し寄せる後悔を糧に
奮い立ちたい。

その方が
嬉しいでしょう?

貴方の分も生きる
なんてかっこいいこと
私には言えないけれど

これまでよりも
少しだけ
貴方のように
かっこよく生きてみたい

それで
いつか私も
誰かの
追い風になれたらいいな

ねぇ
ずっと
見ててね

いつもお願いばっかりで
申し訳ないけど

ありがとう
本当に

ありがとう
またね

 

<おわり>

 

 

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