前のお話(第13話)
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上の空の上|第13話|大切な人を看取った記録|013
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第14話
その日
私は
嗅覚の限界を超える
花の匂いを浴びていた
全ての花が
この部屋の苦しみや悲しみを
溶かし出そうと
見返りを求めず
最も美しい時を
ただ差し出してくれる
その強烈な愛情が
ザラザラに干からびた
喉の痛みを和らげていく
それなのに私は
花たちの健気な愛に背を向けて
どうでもいいことばかり考えていた
これは全て夢で
幻なのかもしれないと
心の片隅で思い
本気で願っていた
あの花籠の隙間に
小型カメラがあるかもしれないと
目を凝らしたりしていた
いい加減にしなさい
テレビの見過ぎよって
笑いながら怒る貴方が頭をよぎる
足を広げて座っても
濡れた手をスカートで拭いても
誰にもバレないように変な顔をしても
貴方はもう怒らない
ずっと微笑んだまま
私を見ている
どこからどう見ても一人用の箱が
貴方を運んでいく
私はもうこれ以上
一緒に行くことが出来ない
世界一美しい貴方の頬に触れる
柔らかく滑らかに吸い付く手のひらの感覚と
指先に突き刺さるこおりのような冷たさに
私の脳みそが悪あがきをやめる
涙が次々に溢れ出す
我慢してカッコつけていたことが
台無しになった
私が泣くと
貴方は
後で隠れて
こっそり泣く
いつもそうだった
だから
私はずっと上の空でいたかったんだ
その日
私は
嗅覚の限界を超える
花の匂いを浴びていた
全ての花が
この部屋の苦しみや悲しみを
溶かし出そうと
見返りを求めず
最も美しい時を
ただ差し出してくれる
その強烈な愛情が
ザラザラに干からびた
喉の痛みを和らげていく
それなのに私は
花たちの健気な愛に背を向けて
どうでもいいことばかり考えていた
これは全て夢で
幻なのかもしれないと
心の片隅で思い
本気で願っていた
あの花籠の隙間に
小型カメラがあるかもしれないと
目を凝らしたりしていた
いい加減にしなさい
テレビの見過ぎよって
笑いながら怒る貴方が頭をよぎる
足を広げて座っても
濡れた手をスカートで拭いても
誰にもバレないように変な顔をしても
貴方はもう怒らない
ずっと微笑んだまま
私を見ている
どこからどう見ても一人用の箱が
貴方を運んでいく
私はもうこれ以上
一緒に行くことが出来ない
世界一美しい貴方の頬に触れる
柔らかく滑らかに吸い付く手のひらの感覚と
指先に突き刺さるこおりのような冷たさに
私の脳みそが悪あがきをやめる
涙が次々に溢れ出す
我慢してカッコつけていたことが
台無しになった
私が泣くと
貴方は
後で隠れて
こっそり泣く
いつもそうだった
だから
私はずっと上の空でいたかったんだ
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