上の空の上

上の空の上|第14話|大切な人を看取った記録|014

uwanosora014

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日
私は
嗅覚の限界を超える
花の匂いを浴びていた

全ての花が
この部屋の苦しみや悲しみを
溶かし出そうと

見返りを求めず
最も美しい時を
ただ差し出してくれる

その強烈な愛情が
ザラザラに干からびた
喉の痛みを和らげていく

それなのに私は
花たちの健気な愛に背を向けて
どうでもいいことばかり考えていた

これは全て夢で
幻なのかもしれないと
心の片隅で思い
本気で願っていた

あの花籠の隙間に
小型カメラがあるかもしれないと
目を凝らしたりしていた

いい加減にしなさい
テレビの見過ぎよって
笑いながら怒る貴方が頭をよぎる

足を広げて座っても
濡れた手をスカートで拭いても
誰にもバレないように変な顔をしても
貴方はもう怒らない

ずっと微笑んだまま
私を見ている

どこからどう見ても一人用の箱が
貴方を運んでいく

私はもうこれ以上
一緒に行くことが出来ない

世界一美しい貴方の頬に触れる

柔らかく滑らかに吸い付く手のひらの感覚と
指先に突き刺さるこおりのような冷たさに
私の脳みそが悪あがきをやめる

涙が次々に溢れ出す
我慢してカッコつけていたことが
台無しになった

私が泣くと
貴方は
後で隠れて
こっそり泣く

いつもそうだった

だから
私はずっと上の空でいたかったんだ

 

その日
私は
嗅覚の限界を超える
花の匂いを浴びていた

全ての花が
この部屋の苦しみや悲しみを
溶かし出そうと

見返りを求めず
最も美しい時を
ただ差し出してくれる

その強烈な愛情が
ザラザラに干からびた
喉の痛みを和らげていく

それなのに私は
花たちの健気な愛に背を向けて
どうでもいいことばかり考えていた

これは全て夢で
幻なのかもしれないと
心の片隅で思い
本気で願っていた

あの花籠の隙間に
小型カメラがあるかもしれないと
目を凝らしたりしていた

いい加減にしなさい
テレビの見過ぎよって
笑いながら怒る貴方が頭をよぎる

足を広げて座っても
濡れた手をスカートで拭いても
誰にもバレないように変な顔をしても
貴方はもう怒らない

ずっと微笑んだまま
私を見ている

どこからどう見ても一人用の箱が
貴方を運んでいく

私はもうこれ以上
一緒に行くことが出来ない

世界一美しい貴方の頬に触れる

柔らかく滑らかに吸い付く手のひらの感覚と
指先に突き刺さるこおりのような冷たさに
私の脳みそが悪あがきをやめる

涙が次々に溢れ出す
我慢してカッコつけていたことが
台無しになった

私が泣くと
貴方は
後で隠れて
こっそり泣く

いつもそうだった

だから
私はずっと上の空でいたかったんだ

 

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