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【文書版|中編】上の空の上|大切な人を看取った記録|020

上の空の上中

注意点

大切な人を看取った記録です。
悲しい表現がたくさんあります。
苦手な方は飛ばしてください。

 

前のお話しはこちら

 

上の空の上|中編

足元を狂わされるほどの
猛烈な雨足

 

まるで軍隊の行進みたい

 

動きに一切の迷いがなく

入り込む隙がない

 

それはそれは
すごい大群で

途切れることなく
どこまで続く

 

そこに容赦なく

機嫌の悪い雷が

街の隅々まで爪痕を残す

 

理由がわからないけれど
とにかく
空が怒っている

 

私何か怒らせるようなことしたかな

 

紫外線を嫌って

せっかく出てくれた

太陽を避けて歩いたこと

 

バチが当たったのかなぁ

あぁ

傘が

壊れそう

 

この一瞬
また次の一瞬

 

私を横切り

追い越して

しまいには

置いていく

 

お願い

置いて行かないで

 

 

あの日なぜか

疲れているのに
眠れなかった

 

あの日なぜか

深夜3時
私は起きていた

 

あの日なぜか

すぐに
タクシーが捕まって

 

あの日なぜか

道路工事がお休みで

 

あの日なぜか

信号は殆ど青だった

 

あの日なぜか

 

 

 

 

 

カーテンを過去最速で搔き分ける

 

貴方の眉間に

見たこともないくらい深く

シワが刻まれている

 

不規則に悶える身体に合わせて
ベッドが軋む音がする

 

そこにいる全ての人間が

慌ただしく

行ったり来たりしている

 

ザワザワ
落ち着かず騒がしい

笑顔で出迎えてくれるなら

 

ねぇ

いつもみたいに天気の話をしようよ

 

 

 

昨日まで効いていた

痛み止めが

突然効かなくなって

 

貴方はとてもとても
苦しんでいる

 

私は弱虫で

貴方が重い病と戦っていること

 

いつのまにか

忘れてしまっていたらしい

 

向き合わなければいけない現実から

目をそらして

誤魔化して

逃げていた

 

 

不意に

 

無責任な私の心に

 

鋭い言葉が突き刺さり

 

私を強制的に現実に引き戻す

 

その時
未来が
圧倒的な絶望に支配されてしまった

 

「もう楽になろう。」

「もう十分頑張ったよ。」

 

え?

 

は?

 

 

耳を疑った

だけど
空耳でも

聞き間違いでもなかった

 

みんな
それを

唯一の選択肢と

自分を説得するように

なんども口にして受け入れていく

 

どうやら私だけ馬鹿だったようだ

何も

何一つ

理解出来ない

 

それどころか
立ちくらみがして目眩がする

 

 

おそらく

私だけ

特別に

意地悪なんだろう

 

そしておそらく

私だけ

特別に

自分勝手なんだろう

 

そして

おそらく私だけ

やっぱり馬鹿なんだろう

 

いやだ

いやだ

 

嫌だ

 

たとえ痛くても
そんなこと知らない

 

私は大馬鹿だから
何も気付かない

 

残酷で

とても冷たい人間

 

知らない
誰も知らない

 

みんないらない

みんな知らない

みんな居なくなれ

 

どうでもいい

嫌われていい

憎まれていい

 

もう少しでいい

あと少しでいいから

 

だって

 

もう少しで

太陽が昇るよ

 

 

ねぇ
明日には
晴れるかもしれないんだよ

明日には
奇跡が起きるかもしれないんだよ

 

 

 

 

結局

私も

誰も

 

限界をとっくに超えて

ひとり悶え苦しむ

貴方に

 

これ以上の我慢や頑張りを
要求する

勇気も

権利もなくて

その時が来た

 

それは

今までと桁違いに
厳重に守られたケースに入っていて

 

何人もの人間の
確認作業を通過して

貴方の身体の中に
確実に侵入していった

 

それから
数時間

 

眉間のシワが嘘みたいに

姿を消した

 

私達は

襲いかかるすべての恐怖を

人工的に

はるか遠くへ

突き飛ばして

 

穏やかな柔らかな時間を手に入れた

 

 

ただそれと引き換えに

差し出してしまった

取り返しのつかない

尊いもの

 

その代償の大きさに

心が追いつかず

自分を軽蔑し続ける

 

 

貴方はまるで

泣き疲れた子どものように

 

どこまでも深く眠っている

 

それはまるで

必死に働き続けて

ようやくたどり着いた

休みの日の二度寝のよう

 

深く

贅沢に

貴方は眠り続けている

 

こんなにも

儚く頼りなく

行ったり来たりして

傷ついているのに

 

私はまた
錯覚してしまいそうになる

 

握った手の温もりが
このまま

永遠に続くことを

願わずにはいられない

 

 

貴方は
眠ったまま

 

時々笑ったり

顔を強張らせたりしながら

 

今までとは違う

私とは違う世界を
泳いでいる

 

 

私達は

引き返せない

一本道を歩く

 

どんどんと
道幅が狭くなる

 

道路標識も

交差点もない道

 

もう二度と迷うことも

迂回することも

スピード違反で捕まることもない

 

「迷う」ことは
「迷える」ということ

 

憤りや葛藤ですら

今は
輝いて見える

 

 

この

平坦な

何もない

 

 

だけど

こんな時こそ

 

生涯枯れることのない

美しい花に出会うことを

 

私達は

もう

知っている

 

 

 

全ての意識を手繰り寄せ

どんな小さな花も見逃さない

 

この花が

この先の私の未来を

必ず支えてくれるから

 

 

あなたに怒られそうなくらい

だらしなく

ダラダラと歩いて

時間を稼いだけれど

 

もうこれ以上

進めないところまで

来てしまったみたい

 


<中編おわり>

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