上の空の上
ベッドに溶けてゆく
貴方を見ている
不自然なほど
清潔な匂いに包まれて
懐かしい匂いは
かすかにすらしない
カーテンはいつも静かに開ける
貴方が眠っていても
窓越しに空を見つめていても
貴方が気付くまで
貴方を見ている
髪の流れ
手の運び方
息をつなぐ 肩のリズム
長い睫毛
内出血した右腕
不本意にも注がれる
人工的な液体
臆病者の私は
貴方に隠れて
こそこそと
貴方の「生」を掻き集め
目に焼き付けていく
私に気付くと
貴方はまず笑って
その後決まって
天気の話をする
食べることすら生活から排除され
毎日毎日同じ景色を眺める日々の中で
病状に関わることを除けば
この部屋に訪れる変化は
天気くらいしかない
そんな簡単なことに
やっと気付いたのは
梅雨になってからだった
いつもいつも天気の話ばっかりだねーって
私はなんて間抜けなんだ
追いつけないほどの変化が
突然
私を襲って
時間が足りないと
もがいて
息切れして転んでも
昨日と今日に違いがあることの愛しさを
噛み締めなくてはいけないんだ
あのね
私
貴方が新しいパジャマを着ていると
嬉しかったんだよ
次のお話
全18話続きます。
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上の空の上|第2話|大切な人を看取った記録|002
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