上の空の上

上の空の上|第1話|大切な人を看取った記録|001

上の空の上

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上の空の上

ベッドに溶けてゆく
貴方を見ている

不自然なほど
清潔な匂いに包まれて

懐かしい匂いは
かすかにすらしない

カーテンはいつも静かに開ける

貴方が眠っていても
窓越しに空を見つめていても

貴方が気付くまで
貴方を見ている

髪の流れ
手の運び方
息をつなぐ 肩のリズム

長い睫毛
内出血した右腕
不本意にも注がれる
人工的な液体

臆病者の私は
貴方に隠れて
こそこそと
貴方の「生」を掻き集め
目に焼き付けていく

私に気付くと
貴方はまず笑って

その後決まって
天気の話をする

食べることすら生活から排除され
毎日毎日同じ景色を眺める日々の中で

病状に関わることを除けば
この部屋に訪れる変化は
天気くらいしかない

そんな簡単なことに
やっと気付いたのは
梅雨になってからだった

いつもいつも天気の話ばっかりだねーって
私はなんて間抜けなんだ

追いつけないほどの変化が
突然
私を襲って

時間が足りないと
もがいて
息切れして転んでも

昨日と今日に違いがあることの愛しさを
噛み締めなくてはいけないんだ

あのね

貴方が新しいパジャマを着ていると
嬉しかったんだよ

Copyright© 鈴木みろ|miro suzuki , 2020 All Rights Reserved.