上の空の上

上の空の上|第3話|大切な人を看取った記録|003

uwanosora003

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この部屋の窓は開かない

風が
新しい季節を運び込むことを
許さない

 

温度は常に一定で
生真面目なエアコンが
眠ることなく
終始働いている

会話の隙間に
空を見て
せっかく上がった口角が
また下がってしまう

どんよりした空気を
鮮やかに拭う紫陽花も
ここには咲かない

救いようのない灰色が
私達を埋め尽くす

梅雨をこんなに恨んだこと
無かっった

じめじめした鬱陶しい日々の後に
必ずやってくる
底抜けに明るい夏

毎年
毎年
どんな異常気象の年でも
雨道を抜けて
夏が来た

でも
夏が来ないとしたら?

全ての人の梅雨は
必ず明けて

みんなに
平等に
夏が来るって思っていたよ

夏が来ないとしたら
この
灰色の世界は
あまりにも
意地悪だと思うんだ

私の他愛もない日常に

貴方が望むことの
殆どが詰まっていて
私は後ろめたい気持ちになる

口癖のように
旅行に行きたいと呟いていたのに

いつのまにか

どこか行きたい
家に帰れればいい
少しでいいから外の空気が吸いたい

みるみるうちに
何かが遠ざかっていく

部屋の隅っこで
貴方のお気に入りのペタンコ靴が
お行儀良く
ずっと待っているのに

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