上の空の上|第12話|大切な人を看取った記録|012

前のお話(第11話)

第12話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

覚悟していたより
ずっと
柔らかな別れだった

無理矢理 引き離されたり
突然シャッターが閉まったり
私だけ登れない
巨大な壁が現れたりするのでは無く

ここから先は一人で行きなさいと
貴方が手を離した
そんな気がした

先生の話は聞かなかった

疑問を解消したところで
結果が変わるわけじゃない

何をどう説明されても
納得なんか出来るわけない
時間をかけて納得する以外
選択肢がない

そして
何より
貴方の身体に温もりが宿るこの最期の時に
貴方から離れるなんて出来ない

眠る貴方の背中に両腕を滑り込ませて
貴方の体重、匂い、それから体温を
私の身体に刷り込んでいく

とても眠たくなって
貴方に包まれて
このまま眠りたかったけれど

理不尽な
流れ作業が
押し寄せる

心が追いつかず
逃げ出したくなる

だけど
私にしか出来ないことや
私にしか分からないことの
全てに

貴方の
側に
私がいた証が
散りばめられている

次のお話(第13話)