前のお話
第3話
この部屋の窓は開かない
風が
新しい季節を運び込むことを
許さない
温度は常に一定で
生真面目なエアコンが
眠ることなく
終始働いている
会話の隙間に
空を見て
せっかく上がった口角が
また下がってしまう
どんよりした空気を
鮮やかに拭う紫陽花も
ここには咲かない
救いようのない灰色が
私達を埋め尽くす
梅雨をこんなに恨んだこと
無かっった
じめじめした鬱陶しい日々の後に
必ずやってくる
底抜けに明るい夏
毎年
毎年
どんな異常気象の年でも
雨道を抜けて
夏が来た
でも
夏が来ないとしたら?
全ての人の梅雨は
必ず明けて
みんなに
平等に
夏が来るって思っていたよ
夏が来ないとしたら
この
灰色の世界は
あまりにも
意地悪だと思うんだ
私の他愛もない日常に
今
貴方が望むことの
殆どが詰まっていて
私は後ろめたい気持ちになる
口癖のように
旅行に行きたいと呟いていたのに
いつのまにか
どこか行きたい
家に帰れればいい
少しでいいから外の空気が吸いたい
みるみるうちに
何かが遠ざかっていく
部屋の隅っこで
貴方のお気に入りのペタンコ靴が
お行儀良く
ずっと待っているのに